出来損ないの減らず口

毎週金曜日にちょっとしたクレイジーをあなたに

天狗と俺

この前、親父の実家で電気工事を手伝ってくれって言われたから、

田舎で農家をしてる親戚の家に行ってきたんよ。

 

 

 

今って秋の稲刈りシーズンでさ、

それに合わせて村の祭りがちょうど開かれてたんよね。

 

 

完全に祭りの存在すら忘れてたわけやねんけどさ、

子供の時結構楽しんでた祭りやったから、

久しぶりに祭りを見て懐かしいなぁ思てたわけなんよね。

 

 

豊作を祝うのか、願うのか、感謝すんのか知らんが、

そんな系の祭りなんやろうと思うんやけどさ、

祭りって花火大会みたいなんしか周りにない今から考えると、

土着的なちょっと変わってるなぁと思うところもあるよね。

 

 

その祭りはさ、

村中を走り回る天狗に子供たちが後を付いて、

「お菓子ください!!!」

って叫ぶんよ。

すると天狗がお菓子を撒いてくれて、

子供たちが喜々として撒かれたお菓子を取り合う。

 

平たく言えばそんな祭りなんよね。

 

 

 

俺も小さい時その天狗について回って、

「お菓子ください!!!」

って叫びながら、

他の子供たちと混ざって地面に投げ捨てられたお菓子を拾って

一喜一憂してたんを覚えてる。

 

 

 

天狗がまた怖くてさ。

ボロボロの布みたいな服着て、手には木の棒持ってるんよ。

んで顔は真っ赤で鼻の長いあの天狗でしょ?

走るときも地面にその棒叩きつけて威嚇したりさ、

ヤンキー風の兄ちゃんに柿ぶつけて動けなくしてボコボコにしてたりさ、

まぁ怖い。

 

 

 

そんな怖くて強い天狗の後について、

お菓子をもらうのがスゲー楽しくてさ。

知らん周りの子供たちと一緒になっておっきい声出してお菓子貰ったりして、

印象的で素晴らしい子供時代の思い出やった

 

 

 

 

 

と、この前まで思ってたんよ。

 

 

 

 

そんな素晴らしいもんやったはずやのに、

完全に忘れていた•••

 

俺が忘れてたことに理由があったんよね。

 

 

 

 

この祭りさ、

豊作をええ感じにする祭りっぽいから、

天狗は村を回るときに農家の家を中継地点みたいにしてるんよね。

 

 

 

たいていの家はちょっと入ってお菓子だけもらってすぐに出てくるんやけど、

うちの親戚の家は違ったんよ。

 

 

うちの親戚は地元でも有数の地主で、

金も持ってるしそれなりに権力もあったんよね。

 

 

だからおのずと祭りでもすごい力があって、

天狗も親戚の家を休憩場所として使わせてるような、

そんな感じやったんよ。

 

 

小学校低学年の俺はそれが誇りやったんよ。

他の子供たちは天狗を追いかけてくるけど、

家の中まではこれへん。

 

俺は家の中に入って天狗のお兄ちゃんたちと話したりできるって。

外にいる奴らと違うんやって。

 

 

 

でも高学年になるかならんかのころ、

毎年のように祭りに行って、

天狗のお兄ちゃんと家の中で話をしてた時。

 

 

 

 

「お菓子ちょうだい!!」

俺が天狗のお兄ちゃんに言う。

 

「こんなんでいいですかね~」

親戚の顔色をうかがいながら、

さっきまで天狗だったお兄ちゃんが

作り笑顔で俺にお菓子を手渡ししてくれる。

 

 

さっきまで俺もほかの子供と同じく、

天狗に扮した絶対君主からお菓子を分け与えられ喜んでいたのに、

今はこんなに低姿勢のお兄さんが、笑顔でお菓子を渡してくれる。

 

 

俺は何も偉くないし、何もできない。

 

しかも俺は分家の子。

 

血のつながりも薄く、この時くらいしか村の人と会うことなんてない。

 

 

 

そして。

 

そんな対応をされている俺を見て、

親戚がとても嬉しそうにふんぞり返って座っていたのだ。

 

 

 

今までそれが当たり前のように行われていて、

俺はそれを楽しみにしていた。

それですごく楽しんでいた。

 

 

 

あの時、はっきり理解できていたのかと言われればわからない部分も多い。

ただ、はっきりと覚えている。

 

今まで感じた事のない嫌悪感。

 

 

 

 

そのあと俺が天狗を追いかけたのか、

次の年からどんな風に過ごしていたのかは一切覚えていないが、

ここら辺を境に、俺の天狗の思い出は無いんよね。

 

 

 

 

電気工事をしていると、

鈴の音をさせながら天狗が軒先に入ってきた。

 

門の前にはたくさんの子供たち。

 

 

天狗は親戚のおじさんに

子供たちにはわからない程度の軽い礼をして中に入ろうとしていた。

 

 

 

その行く先に俺がいた。

 

 

天狗は、

「業者の奴、邪魔なんじゃ」

といわんばかりに、

ぶつかりそうな勢いで俺をすり抜け家の中に入っていった。

 

 

 

 

「悲しいな」

 

そう思った自分が悲しかった。