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出来損ないの減らず口

毎週金曜日にちょっとしたクレイジーをあなたに

クレーム(後半)

着いて翌日。

車で1時間ほど走った先が現場。

 

 

現場にはすでにサービスの20代後半くらいの小太りのお兄さんも入っていて、

軽く挨拶をして、二人で中へ入った。

 

 

 

 

「わずわずかんさいからぐくるぅさめやね」

事務所でタバコを吸っていたおじさんが俺を見て笑顔でそういった。

 

 

 

 

あんまり何言ってるかわからんけど、

「どちらかといえば靴箱に似ていますね。」

と、話を合わせる。

 

 

 

挨拶もそこそこに、

現場のおじさんはすぐに真剣な顔になって、

ファイルから数枚の図面を開いて指さしながら話し始める。

 

「すっそくだぐど、くぬくかいのづぅんぐへいすんぐぅ…」

 

 

 

 

 

これは…まずい…

 

 

専門用語になるとまったくなにを言っているかわからん…

 

 

このままやと、客に説明できねぇし、指示もできねぇ…

 

 

困った顔でサービスマンを見ると、

それを察したのかその場でサービスマンは通訳をしてくれる。

 

「くぬひとわぁ、きかいのでんきはいすんのことを言うてるんですよ~」

 

 

 

悪夢が再来した。

 

 

 

 

 

だが不思議なもので、ずっと聞いてるとだんだん何の話をしてるかわかってくるもので、

なんとなくの概要をつかんで、とりあえず現場調査に向かうことにした。

 

 

 

「はたぬかすんはかんさいからきたんづすよね?」

 

移動中サービスマンがきいてくる。

 

「そうですよ。向こうは空気も汚いし蒸し暑いし最悪ですよ~」

 

「こっつはなにもないからねぇ~

人も少ないから今回みたいにご迷惑かけちゃうことが申し訳ぬいです…」

 

 

話を聞くと、この付近のサービス所は東北の広い範囲を任されていて、

ほかの拠点メンバーは別の県を毎日転々としているのだという。

 

 

来てくれた小太りも、

実は今日ほかの作業を夜に変更してわざわざ来てくれたらしく、

夕方頃には帰らないといけないのだという。

 

 

「いえいえ、こちらこそすいません…

 お忙しい時に時間作ってくださってありがとうございます」

 

 

「すんなすんな~

 僕の穴埋めに関西からきてくだすったから、おたぐいさまです~」

 

 

そんなやり取りを交わしながら、

機械の整備作業に入った。

 

 

 

 

午前中のうちに部品交換を終え、

午後いっぱいで経過観察を行う。

 

 

営業として俺は作業こそできないが、

サービスマンが帰った後も、

頑張ってくれた小太りの少しでも助けになれるよう、

データの記録や状態確認を永遠と行った。

 

 

 

とりあえずその日の作業は終わりホテルに帰れば夜の19時。

 

疲れてホテルに入ろうとした俺の体に、

ふいに和太鼓の地鳴りに近い響きが流れ込んできていた。

 

 

ちょうどその日は、

東北三大祭りの一つ「秋田竿灯祭り」の開催時期で、

ホテルの近くで祭りが行われていた。

 

 

その時俺は、

「東北三大祭りか~

疲れてはいるがせっかく秋田に来たんだし~

楽しんで帰らな損やな!」

 

 

 

 

なんてことは微塵も思わないんだよ!

 

 

「関西へ帰りたい。」

望みはたった一つだったよ!

 

 

 

 

とはいえ、晩飯も食わなあかんし、することもないしということで、

とりあえず祭りの方へ出て行った。

 

 

 

 

秋田の竿灯祭りとは、

10mほどの竹竿に横竹を結び、その横竹に提灯を40個ほど吊るした「竿灯」

と呼ばれるものを、

小学校の掃除の時に流行る「ほうき立て」のように手やあごや腰に乗せてバランスを取りながら立てて、

その姿を稲穂に見立て豊作を祈願する祭り。

 

 

 

そんな祭りとしての意味合いはともかくとして、

祭りなんてものは「陽キャ」の遊びやん。

 

 

イケてる奴らが祭りの思いとか、趣旨なんて考えずに、

女の子を捕まえてその夜激しく求めあう為の演出でしょ?

 

 

 

陰キャの俺からすれば、「女の子をナンパしてセックス」って

AVですることやからさ、できねぇししたくねぇしうらやましいし。

 

せやからそこまで気のりはしなかったんよね。

 

 

 

 

「話のネタに…」

と祭会場に入った瞬間、思わず息をのんだ。

 

 

祭りは、「竿灯通り」って呼ばれる、

片側3車線くらいある馬鹿みてぇに広い道路を占領して、

1キロとか2キロとかすっげぇ規模でやっているのだが、

通りに入ると、視界一面が真っ赤な提灯で埋め尽くされるではないか。

 

 

 

まさしくそれは、稲穂のようであった。

 

 

 

 

その時俺は。

 

 

 

 

柄にもなく、感動してしまった。

 

 

 

「すごい」

そうとしか言い表せないのが苦しいと感じるほど、

竿灯で埋め尽くされた秋田の夜に圧倒されてしまったのだ。

 

 

一つ一つの竿灯が熟練された技を持った男たちによって挙げられており、

その場所場所で自分たちの技を見せつけている。

その姿は素直にかっこよかった。

 

 

 

竿灯を上げる男ばかりがカッコいいわけではない。

その周りで笛や太鼓で盛り上げる人、

掛け声をかけながら竿灯を見守りサポートをする人、

そういった一人一人の動きがこんな汚い人間にすら「かっこいい」と思わせる素晴らしい祭りだった。

 

 

永遠とも思える竿灯の列をゆっくりゆっくりすすんでいく。

言ってしまえば同じような服を着たおじさんが同じような提灯を上げてるだけなのに、

何故だか全く飽きることもなく、

俺はずっとずっと時間も忘れて歩き続けた。

 

 

 

 

そんな中、

ふと一つの竿灯が目に留まり俺は足を止めた。

 

 

他より高いわけでもなければ、

特筆した技を繰り出しているわけでもない。

 

ただ、俺はその竿灯から目が離せなかった。

 

 

 

 

 

それはそのはず。

 

その竿灯を持って行ったのが、

さっきのサービスマンだったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てめぇ祭り出席のために今日早く帰ったよね!!!

 

そして明日は「祭り後、飲み会行くから」つって

半休とってるパターンだよね!!

 

 

 

 

もうこっちだって飲むしかないでしょ!!!

すぐさま祭りを後にして

近くの大阪王将入って馬鹿みたいに飲んじゃったもんね!!!

 

 

 

 

 

 

まだまだいっぱい愚痴はありますよ!

だけどまぁまぁこの辺で。